空海の風信帖とは?最澄への三通の手紙を内容と筆跡から楽しむ

※本記事には広告・アフィリエイトリンクが含まれます。

空海の書を見ようと「風信帖」の図版を開く。墨の線はすっと目に入るのに、続けて文字を読むとなると、どこで区切ればいいのか分からない。名筆と言われても、何を手掛かりに見ればいいのでしょう。

先に一つだけ押さえてください。風信帖は、空海が最澄へ送った三通の手紙を一巻にまとめたものです。初めから鑑賞用のお手本として書いた三枚ではなく、相手に伝えたい用件のある書状。それが分かると、線の美しさと、手紙の中身を行き来できます。

ここでは、名前の由来、三通の用件、図版の見方、本で調べる順番を紹介します。現物を拝観した体験記ではありません。公式解説と公開された部分図版を入口に、これから見る人・読む人のために整理します。

目次

風信帖は空海から最澄へ送った三通をまとめたもの

読み方は「ふうしんじょう」。東寺の寺宝紹介では、「弘法大師尺牘〔風信帖〕」という名前で案内されています。尺牘という見慣れない字があっても、最初は手紙の資料なのだ、と押さえれば読み進められます。

東寺の公式紹介によると、空海が最澄に宛てた書状三通を一巻にしたものです。第一通の冒頭にある「風信雲書」にちなみ、風信帖と呼ばれています。国宝で、平安時代の作品として紹介されています。

ここで、三通と一巻を分けてみましょう。三通は手紙の数、一巻は現在まとめられた資料のまとまりを示す数です。「三巻の作品」「一度に三通を書いて渡した」と置き換えると、確認できた説明を超えてしまいます。

名称も、手紙の中身全部を要約した題名ではありません。冒頭の語に由来する呼び名と分かれば、「風について教える文章なのかな」と題名の字面だけで内容を想像せずに済みますね。

東京国立博物館の2019年の特別展解説は、もと延暦寺にあり、後に東寺へ寄進されたことを付属の寄進状から説明しています。現在の所蔵先と、手紙が宛てられた相手は別の情報です。

空海から最澄への書状が東寺にある。この関係を最初のメモへ書くだけでも、人物、手紙、所蔵先が混ざりにくくなります。「空海が東寺から最澄へ三通を送った」と、今の所蔵場所をそのまま執筆場所へ移さないようにしましょう。

手紙としての情報を押さえた後、書の作品として見る。その順なら、空海の名だけで圧倒されず、何を伝えるための文字だったかに目を向けられます。後世の呼び名を知ることと、その時の相手への用件を読むことの両方が、鑑賞の入口になります。

図版を手元で見比べる本の候補は、二玄社の『日本名筆選36 光明皇后・空海・最澄集』。出版社の収録案内で、風信帖に加え、空海の別の書や最澄の久隔帖を扱うことが確認できます。異なる書を同じ一冊で探したい人の候補です。

『日本名筆選36 光明皇后・空海・最澄集』を楽天市場で確認する

三通の用件を先に知ると、手紙の相手が見えてくる

三通とも、同じ用件なのでしょうか。東京国立博物館の2011年の公式解説は、それぞれの内容を紹介しています。

第一通は、『摩訶止観』を送ってもらったお礼と、高雄山寺へ来てもらいたいというお願い。第二通は、多忙なので時期を改めて返事をするという内容。第三通は、最澄に会いに行くことと、貸すはずだった『仁王経』を持参できなくなったことへのお詫びです。これは博物館による概要で、ここで独自に全文を訳したものではありません。

お礼。返信の予定。訪問とお詫び。

用件が見えると、国宝という札の奥に、人と人の連絡があることが伝わってきませんか。ただし、現代の短い業務メールと同じ作法で書かれたものだと考える必要はありません。用件をつかむための入口として、身近な連絡の形と比べるくらいに留めましょう。

第一通を読むなら、贈られた書物の名と、会って話すことへの願いを分けてメモします。お礼だけの手紙という一行で閉じると、その後のお願いが抜ける。逆に招待だけとまとめれば、受け取った物への言葉が消えます。

第二通なら、返事を改めるという用件が中心。短い要約を先に作った後、現代語訳で、どのような言葉遣いで相手へ伝えているのかを見る。「多忙」という一語から、日々の仕事の量や具体的な予定を想像して確定しないようにしてください。

第三通では、訪問と持参できない書物を別々に追うと読みやすいです。「会いに行く」「予定していた物を持って行けない」という二つの関係を残せば、訪問を全部断った話と取り違えにくくなります。

この読み方は、三通を現代の例文集へ変えるためではありません。難しい字の前で止まった時、内容に戻れる足場を作るためです。書物の思想的な内容をさらに知りたい場合も、まず手紙の用件と、書物そのものの説明を分けて調べましょう。

現代語訳も含む資料を探すなら、天来書院『風信帖・灌頂記』のシリーズ書の古典版が候補です。版元ドットコムの書誌・目次で、図版、現代語訳、解説、字形と筆順などを確認できます。紹介しているのは収録構成で、同書の訳文を転載したり、全巻を読んだ感想を述べたりしているわけではありません。

天来書院『風信帖・灌頂記』シリーズ書の古典版を楽天市場で確認する

図版は全部の字を読む前に、列と線の変化から見る

東京国立博物館の2019年の特別展ページには、第一通の部分図版が掲載されています。今回はその公開画像を見て、筆跡を見る入口を整理しました。三通すべての高精細画像や現物を調べた、という意味ではありません。

公開された部分図版では、縦に続く文字の列と、その間の空間が見えます。まず、右から左へ、列の並びを大きく眺めてみてください。字を一つも読めなくても、墨が密に見える場所、空間が広く見える場所を比べることはできます。

次に、同じ列の中の文字の大きさへ目を移します。一字ずつの輪郭を追うと、文字の収まりと、次の文字へ向かう線の動きに注目できます。ここで「この線は悲しみの表れ」「この大きさは怒り」と、筆跡を感情の証拠へ飛ばさないのが大切です。

線の濃淡にも目を向けたいところ。ただし、画面に表示された画像の色や明るさは、実物の紙と墨をそのまま測った数値ではありません。画面の見え方だけで墨の成分、紙の種類、筆圧の強弱まで言い切るのは避けましょう。

「勢いがある」という感想を持ったら、どの線やつながりからそう感じたかを一か所指してみる。専門的な書風の分類とは別に、自分が見た部分を言葉にする練習です。好みを持つのは自由ですが、解説の事実と同じ欄へ書かないと、後から見直しやすくなります。

慣れないうちは、鑑賞と読解を一度に終えようとしなくて大丈夫。「今日は列の間を見る」「次は冒頭の字を釈文と照合する」と目的を一つに絞る。読めなかった文字の数ではなく、新しく対応が分かった一か所を残す方が、次へ進む足場になります。

図版の「部分」という表示も見落とさないでください。一通の切り取られた画像だけから、巻全体の長さや、三通の書きぶりの違いを結論づけることはできません。公開されている範囲を見る楽しみと、見えていない範囲を区別すれば、無理な評価をせずに済みます。

書き方を学ぶ側へ進むなら、二玄社の『改訂版 書道技法講座10 風信帖・灌頂記』があります。出版社の案内では、80ページ、DVDと特製下敷付きの版です。DVDの映像を見たレビューではないため、実際の内容や再生環境は購入先の説明で確認してください。

『改訂版 書道技法講座10 風信帖・灌頂記』を楽天市場で確認する

釈文・書き下し文・現代語訳は、知りたいことに合わせて行き来する

文字が読めない時、どの解説へ戻ればよいのでしょう。資料を探す時に役立つのが、図版、釈文、書き下し文、現代語訳という区別です。本によって収録範囲や表記は異なりますが、それぞれを見る目的は分けられます。

図版で見たいのは、文字の形や配置。釈文は、くずされた字を読み取って活字などで示したもの。書き下し文では、漢文を日本語の語順で読むための形を追い、現代語訳で用件の意味をつかみます。

だから、最初から釈文だけを一字ずつ読むのが唯一の道ではありません。手紙の中身を知りたいなら、先に現代語訳で用件をつかんでから図版へ戻る。書の形に興味があるなら、図版の一字を釈文と対応させ、その字を含む文の意味へ進む。その日の目的で順番を変えていいんです。

実際に本を開いたら、まず第一通がどこからどこまでか、資料の区切りを見ます。続いて、図版の見える範囲と釈文の対応を確かめる。見本の一字だけを大きく載せるページと、手紙全体を載せるページでは、分かることも違います。

読書メモなら、最初の行に「資料名・ページ・第一通のどの部分か」を書いておきましょう。その下に「解説が示す用件」と「自分が図版で気づいたこと」を別々に書きます。たとえば、用件の欄は「書物への礼と会うお願い」、観察の欄は「この列で字の間隔が変わって見える」といった分け方です。

この二つを混ぜて「字の間隔が変わるのは、空海が相手を急がせたいから」としてしまうと、資料にない理由を作ることになります。理由を知りたくなったら、疑問として残せばいい。気づきがあるのに、説明を急いで盛る必要はありません。

最澄の手紙にも興味が出た場合は、別の作品名と宛先を調べてから読み比べてください。『日本名筆選36』には久隔帖も収録されていますが、同じ本に並ぶからといって、それを風信帖への直接の返信と決めつけることはできません。

買う前に、図版中心の本か、解説や訳を求める本かを一つ選ぶと、候補を絞れます。『日本名筆選36』は複数の書を収録するという構成を理由に挙げている一冊です。特定の釈文や訳のページを実読して比較した評価ではありません。

複数の書を見比べる『日本名筆選36 光明皇后・空海・最澄集』を楽天市場で確認する

所蔵されていることと、今見られることを分けて準備する

風信帖は東寺の寺宝。それなら東寺へ行けば、いつでも見られるのでしょうか。ここは、旅行の予定を立てる前に分けたい点です。

東寺のよくある質問は、風信帖や曼荼羅の常時公開について、宝物館で展示する時は公式サイトで知らせると案内しています。所蔵の紹介があることを、常設展示の案内として読まないでください。

宝物館が公開される期間と、風信帖という特定の作品が出る期間も別です。施設が開いているという情報だけで、目的の作品を見られるとは判断できません。行く日の展覧会名、作品一覧、展示替えの案内を読んでから予定を立てましょう。

東京国立博物館の2011年・2019年のページは、作品の解説を読むための資料として利用しています。そこに載る会期や展示日程は過去のものです。いま同じ場所に展示されているという案内には使えません。

ここで準備を分けると、急に旅行が難しくなっても楽しみが残ります。現物を見たい日の計画と、公開図版や本で手紙を読む時間は別々に作れるからです。原物の展示が未確認なら、先に用件を一つ読むところまで進めてもよいのです。

現地で見られる機会が来たら、図版で気になった箇所を一つ選んでおくと、目の置き場が作れます。ただし、必ず三通全部が広げられるとは限りません。展示されている範囲を見て、資料の区切りと対応させるところから始めましょう。

撮影は、作品の名前や古さから判断せず、会場の掲示に従ってください。撮れない場合は、許可された場所で短いメモを残す方法があります。画像の再掲載についても、公開ページで見られることと、自由に転載できることは分けて扱います。

臨書もやってみたい人は、鑑賞の予定とは別に道具と教材を選ぶと、準備が膨らみすぎません。一度に風信帖全部を写すのではなく、教材で扱う範囲と解説を確かめ、一か所を学ぶところから。ただし、これは初心者向けの取り組み方の提案で、上達を保証する方法ではありません。

『改訂版 書道技法講座10』は、旧シリーズの別番号の本と混同しやすい名前です。新品と中古でDVDや下敷の有無が違う場合もあるので、改訂版、番号10、ISBN9784544151107と付属品を購入先で照合してください。本文の構成だけでなく、必要な付属品がそろうかも選ぶ条件になります。

『改訂版 書道技法講座10 風信帖・灌頂記』の版と付属品を楽天市場で確認する

まとめ|名筆の前に、相手と用件のある手紙として読む

風信帖は、空海が最澄へ送った三通の書状を一巻にまとめた資料です。冒頭の語に由来する呼び名と、三通それぞれの用件を分けると、「有名な空海の字」というところから、その手紙の中へ一歩進めます。

最初に全部の字を読めなくても大丈夫。図版で列や線を見てから用件へ戻る道も、現代語訳から一文の意味をつかんで図版へ戻る道もあります。読めない文字を数えるより、意味と形が対応した一か所を残してみてください。

図版の範囲、解説が示す事実、自分が見て感じたことは、別々に書いておく。それだけで、部分画像から巻全体を評価したり、筆跡から空海の感情を決めたりする飛躍を防ぎやすくなります。

本を選ぶなら、収録作品を見たいのか、現代語訳を読みたいのか、臨書へ進みたいのか。今の問いに合う一冊からでいいんです。天来書院『風信帖・灌頂記』は、現代語訳と字形・筆順を含む構成を確認できる候補として紹介しました。旧テキスト版や電子版と、ここで扱うISBN9784887153301の紙版を区別してください。

そして、原物を見に行く時は、所蔵先だけでなく、当日の展示作品を確かめる。書の形を楽しむことと、相手への手紙を読むこと。その二つを手掛かりにすれば、風信帖は一度に分からなければいけない作品ではなく、何度も戻れる一通から始められます。

天来書院『風信帖・灌頂記』シリーズ書の古典版を楽天市場で確認する

  • URLをコピーしました!

この記事を書いた人

空海の生涯や思想、ゆかりの地について、気になったことを一つずつ調べています。

目次